点呼を無事終えて、顧問には"自主練"と言いつつ、実はまだやっていない基礎練に取りかかる。
準備運動も兼ねているからやっておかないとケガをするかもしれないし。基礎練は省けない。
爪先で軽くボールをいじって、足の甲に乗せたりしていると。
「きゃっ ごめんなさいっ」
と、声がするのと同時に背後から何者かが覆い被さってきた。
うろたえて前のめりに倒れそうになったがなんとか踏ん張る。
蹴っていたボールは遠くへ転がって行ってしまい、野球部のテリトリーギリギリのところで停止した。
「え、何?」と、振り返って聞こうとすると。
それより先に「ごめんなさいっ よろめいちゃってっ」と背後の誰かさんは進んで自ら理由を説明。
記憶に新しい声な気がして、なんだか嫌な予感が頭をよぎる。
ホラー映画なんかでお化けを振り返る時みたいに、ゆっくりと首を動かすと。
そこには、お化けよりも会いたくない佐伯マユナの顔があった。
