赤く見える太陽に目を細めて。
顧問の死角になるようなところに隠れながらサッカーゴール前を目指した。
あと数メートルのところまで近づくと、短髪黒髪の頭がくるんと動き、こちらに向く。
どうやら俺の気配を察知したようだ。
『阿宮っ』
口パクで呼ぶと。
『任せろ』
と、阿宮の口が動く。
そして阿宮は顧問に向き直る。
顧問が点呼を取ろうと名簿を開いた直後。
阿宮が口を開いた。
「あ、"観月アヤ"発見っ」
遠くを見渡すように額に手を添えながら言って、安い芝居をうつ阿宮。
はっと、顧問の視線が阿宮が向いている玄関のほうに注がれ。
その目は"観月アヤ"を探すように玄関付近をキョロキョロとさまよっている。
観月アヤは蕾と同じクラスの背の高い女子。
そんななかなか目立つ生徒のことを、うちの顧問は好いているようだ。
だから、20代後半のヤンキーみたいな強面顧問も、観月アヤには弱い。
そんな弱味を知ってからと言うもの。
なんとか点呼直前に部員のなかに滑り込む術として利用されている。
俺もこの弱味作戦を使うのは3回目。
阿宮はと言えば、この作戦の決行において、一番の成功率を誇る頼れるヤツなのだ。
