「さあ、行きましょう」
体がびくりと震えた。奈々の優しげな笑顔さえも冷たさを感じてしまう。しかし、もうここまで来てしまったのだ。
―――今なら、引き返せる。
「奈々ちゃん、俺……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
奈々は不思議そうに首を傾げている。何か勘違いをしたらしく、「大丈夫ですよ」と明るく笑った。
奈々は門に手をかけた。錆びているらしく、耳をつんざく音と共にゆっくりと開かれた。
その洋館は見れば見るほど不気味であった。鬱蒼とした陰りを持ち、しかもどこか臭う。何か腐ったような臭いと、鉄の臭い。吐きそうになるのを堪えながら広い煉瓦の道を歩いた。
