「誰か居る?」
目線の先には、サングラスをして、マンションの壁に寄り掛かりながら煙草を吸っている男の姿があった。
「知らない人でしょ。サングラスしてるから、誰か分かんないし。」
「ですよね!あ―!華奈さんの作った料理早く食べて―!何、作ってくれるんですか?」
普通に、通り過ぎた。
普通に。何事も無く。
「それは、作ってからの、」
「華奈。」
でも、この聞き慣れた低い声が聞こえたら、
成の暖かい、心地よい手を振り払うしか無かった。
「華奈さん…?」
成の驚いた顔が見える。
成、ごめん。
あたしは振り返った。
やはり、そこには
流衣の
姿があった。
何で居るの?
「…………流衣。」
「誰だ、お前。」
「え?」
「誰だって聞いてんだよ。」
切れてる。
流衣はイライラしながら、サングラスを取った。
「華奈さん…………。」
成の不安そうな声が聞こえる。
「…………マサ!」
「はい?」
「さっきたまたま会ったんだよね―?」
あたしは成に、話を合わせろと目で訴えた。
「マサ?」
「うん、そうマサ!同じマンションに住んでてさぁ。たまたまさっき会ったんだよね―。」
気づくな!
「マサ、ごめんね。今から用事だから。またね!」
あたしは成の背中を押した。
小さい、成にしか聞こえない声で「ごめん」と言いながら。
でも、成は
「華奈さん、また!」
作り笑いを浮かべたままマンションの中へと入っていった。

