離れに向かって、何を忘れていたのか思い出す。


離れの小さな台所のテーブルに並べられた材料たち。


小麦粉。
卵。
生クリーム。


つーか、何?
なんなんだ、この量の多さは!!


生クリーム、牛乳1本分ありますよ。
小麦粉はまぁ、1袋だけど。
卵。
スーパーのパック卵じゃなく。
なんか、養鶏所とかで貰うみたいなのに入ってますけど。
確実に30個くらいありますよね?


「買っておいた」


愕然とするオレに向かって、天使様は涼しい顔でそう言った。


買っておいたって。

あんたお金は?

お金?


「もしかして……」

「ああ。おまえの財布から出させてもらった」


やっぱりね。


いなくなった野口さん。
天使様に誘拐され、どこか旅に出てしまわれたのね。


「つーか、なんで5000円も!!」

「材料は最高品を揃えたからな」


最高品ってなんですかー?
それってオレの知ってるものより、はるかに高額なんでしょーね。

つらいわー。
つらすぎるわー。

オレ、原価だけでも5000円するようなティラミスを今から作るんだよなー。


5000円のティラミスってなんなんだよ。



田舎じゃそんなもの、見れねーぞ。



っていうか。


田舎ギネスがあったら、申請できるに違いない。