本来、
大人しそうな その学生は
オーバーアクションと
かなりの早口で、何事かを訴え
アズの肩を掴む指を、離そうとしない
驚き、瞳を見開くアズを
俺はムリヤリ引き剥がして
間に割って入った水谷は
口から唾を飛ばす学生に、
静かに語りかける
すると、学生の口元は、歯を見せて四角
次には三角になって
デカイ手で、額を抑え笑い
そしてもう一度アズを見つめ
パイプ椅子に座って、
自らの絵に、視線を戻した
水谷が、
何を言ったのかは判らない ――
「 ルウ … あっちにね
ダマーが描いた版画があるよ
見に行っておいで 」
アズは息をひとつ、吐いて
ひょこひょこと、ゆび指された右奥に
歩みを進める
――― かかる音楽が、
モーツァルトに変わった
「 … 岡田
どのカップルにも言える事だけど
基本、ルウと一緒の時は
大通りのみを歩いて
もし二人きりの時に、
ああいう事があったら
無理に引き剥がしたりしないで
ルウの逃げ腰の顔って
やけに煽情的だから 逆効果なんだ
裏道で巻いてやるとか
キミ程度の奴が、ヘタに考えない事
すぐに車を拾うかして乗ってね
―― 心配しなくても
もうキミタチには何もしないし
少しルウの笑顔を堪能したら
二人きりにしてあげるから
そもそも今日
一応は、俺の母親を助けてくれた君への
『 一日、ルウとのデート権 』
御礼に連れ出しただけだし 」
「 会ったのか?!
小松原さん、凄い心配して 」
「 うん
なんかやたら、クリスマス
一緒にやりたがってるから
付き合いはするけどね
母子感動モノを見ても
泣けない人間に育ってしまった俺は
顔も知らなかった親父って人に会って
ハニカミながらも「 パパ 」って
呼んでみるイベントをして来ますね 」
「 ――… そんな言い方すんなよ… 」
水谷は
こっちの学園ドラマよろしく
肩をあげ、手をブラリと振り
アズの横へと歩いた


