いばら姫





水谷はすぐにウィンカーを出し
車の群れへと混じった


「 あれ? タカオ お父さんは? 」

運転席のシートに掴まり
何の警戒心も無く、
アズは水谷の耳元で、その所在を問う


「 ごめんな ルウ

―― 少し俺、真木と顔会わせづらくて

ほら、ルウ、嘘つくとすぐバレるし 」



「 … ギターがタカオに選ばれた件は
クウヤ、何も言ってなかったよ 」


「 そりゃお前には言わないだろ
―― ルウだって


あ、ダマーの絵
展覧会やってるの知ってるか? 」


「 ううん!! 知らない!! 」

「 今日までなんだって

割と開かれる画家だけど
個人所有の物が、結構あるから

それで誘いに来たんだ 」



「 ―― ありがとう!!タカオ!! 」



アズは抱き着こうとし
運転中と気付いて、慌てながら身を翻した

水谷は笑い

三角の硝子を、幾つも張り巡らせた構造の
ミュージアム横の路肩へと、車を停める


硝子一枚一枚に、空と雲が映り
ビルの谷間に立つ
小さな青い丘 ―――







銀のポールに赤いロープ

その向こうの壁面には、
オレンジと茶色の混じった、
荒々しい雲にブルーと白

波立つ青い海には、赤黒い、帆船の姿

光だけが、それを冷静に見ている


「 ――…これ 」




「 ジョンソン・ダマー

ルウが居た部屋にも、油絵あったろ?


二百年前位の、イギリスの風景画家
正規の教育は受けてないけど
17歳で見出だされて、修業生活に入った


―― 最後には
風景だか空気だか判らない
光だけの世界しか描かなくなって
亡くなってしまったけど 」



水谷はチケットを既に持っていて
それを俺とアズに渡し
静かなフロアのソファへと
独り、腰を降ろした