いばら姫








くぐり抜けた、
世界で一番高い場所にある出口




風が、耳元で唸る――




『…天辺の
この避雷針みたいな奴は
元は飛行船のマスト留めとして
作られたんだ 』



足元がめくれ上がるのを気にしながら
頭上を仰ぐユカちゃんは、

次には四角いエリアの
かなり太い、灰色の鉄柵を握りながら
チョロチョロと辺りを走り回る



床には
方角を示すコンパスの板


立体の降水確率グラフみたいに
周りは細長い建物で埋まり



北に拡がるパノラマ
銀色に輝くクライスビル

西正面には、ハドソン川
中央にはセントラルパーク


南、街並みと水辺の遥か遠く
霞んで見えるのは
自由の女神だろうか――



だけど

かなり吹きさらしの
衆人監視の状況で
どこかに青山が倒れているとか
隠されているとか
…そんな雰囲気は一つも無くて


灰谷も
ユカちゃんから注意は逸らさずに
客の顔、床
凝視しながら移動している



「 灰谷 …ここって
何時から何時まで昇って来られるんだ 」


『…朝九時から、夜の十二時まで

年中無休 』


「…この避雷針の下
ドアに鍵掛かってるけど
―― この中とか無いよな?! 」


『 … エレベーターの点検や
配線を見る為の入口だけど
鍵の管理が異常に厳しいから

メンテナンス契約してるのは一社

書類と、
それに添付された顔写真に合致しないと
鍵は受け取れ無いらしい

まず最近は、網膜照会があるしね… 』



「…目の網膜が鍵代わりになる奴か 」


『 …そう
第一、システムをかい潜るとか
武力行使して危険を冒して迄とか
…水谷が好むやり方じゃ無い 』


ユカちゃんがハアハアと
俺達二人の横へと走って来た


「 な… なんか、
メッセージみたいな物とか
どっかにないかと思って見てみたけど… 」

汗をかきながら首を振る



―― かなり至近距離に見える
頭上の雲が開いて

少しオレンジ掛かった太陽の元で
ビル群の影が
一斉に下界へと延びて行く