いばら姫






建物の下

寒そうに衿を立て
石畳の歩道を行き交う、
通行人の疎らな波


――― 微笑みながら、
俺達の居る窓を見上げる水谷と


…… その隣で嬉しそうに
辺りをキョロキョロしながら、
あまりイメージとは合わない
デカめのライダースを着た、小さな女の子





スピーカー状態になった携帯から
奴の声が、楽しそうに響く




『 ユカちゃん、連れて来ちゃった

…… 今回、灰谷の報道が軽くあって
すぐにたいしたことないって
本人からも、青山からもユカちゃんに
連絡したみたいだけど…


―― 純愛ってさ 凄いよね


この子
赤坂の事務所まで、独りで来てさ

中には入れなくて
不安そうにしてる所、
"Zattsu"の"ハルト"が
優しく親切に、声かけたらさ…

一緒に飛行機に乗って、
こんな所まで来ちゃった


――― この子、
灰谷が気に入ってるんでしょう?

青山も可愛がってるんだよね…

きっかけは、あれだろ?
コンテストの日に、この子
自分のベースを忘れて
灰谷は一緒に探しに行って

青山は、リハーサルの間
自分のベースを貸してあげたって言う…

良い話じゃない


ちなみに俺も、それは大変だと思って
松田さんに声掛けられた時
うちからベース持って来て
スタンバイしてたんだけどね 』





―― 青山が静かに、低い声で問う



「…… 何が望みだ…… 」