いばら姫





――― 路地を抜けると
別の世界へ続くタンスから出た様に
空気が変わった


「 ――― 市場 」



目も髪の色も
誰ひとりとして同じ者が居ない通り

幌作りの屋根の下には、
魚、肉、野菜


――日本人観光客はすぐに判った

I Love N・Yとロゴの入った
ピンクに白の、ビニールの手提げ

有名ブランドのバッグからは
今見て来たのか、
映画のパンフレットらしき物が
顔を覗かせている

日本ではまだ公開されてない
恋愛物の続編だと思った



年齢は俺より少し、上くらいか

友達同士で来ているのか笑い合いながら
長い爪の手にはライスと肉が挟まれた
薄い紙を握り、頬張る

渋谷や新宿のデパート通りから
ひょいと此処まで連れて来た様に、
その二人だけ浮いていた


――― 少し、人事ながら心配しつつ
嗅ぎ慣れた香水の横を通り過ぎる


舗装された道の両脇に
屋台と小さな店舗が増え
人の流れに規則性が生まれて
ソウルフードの匂いに混じり
コーヒーの香りが辺りに漂う


出先は
昨日 青山が言っていた
コーヒーショップらしい

日本でもやたら見る緑と白の看板
全席禁煙だから
仕事場の誰かに頼まれた以外は
自分から入った事は一度も無い


そして向かい側にはマックスバーガー
入口に制服を着た警備員が立っていて
かなり驚いた




――― 青山が突然駆け出す