いばら姫









…困った

――― ポールが去って
どうもこの車内は、日本語は圏外らしい

全員何か
一生懸命話し掛けてくれてはいるのだが
いわゆるこっちの若者言葉
"Slang"が多くて、ほとんど意味が判らない

運転席の、黒い革コートの彼がマイク
横の赤いダウンの彼がテッドで

ドレッドの、
軽快に歌を唄いながら
ずっとリズミカルに膝を叩いている彼が
多分フェデリコと言う名前なのは判った




――― 左側には川と、ビルの隙間から
何か明るい橋が見えた

ずっと横を走る公園には
RiverSideParkと標識が出ていてだから多分、
南から北へ向かっている筈




「 96Street 」
そうマイクが呟き、進路を右へと変える


――― やたら明るい左側を見ると
人通りの疎らだった今までの道とは違い
かなり大勢の人間が歩いている

ビルとビルの間の空には、
ドーム状の光が拡がっていて
ネオンライトと巨大な看板が
視線の左に行き、過ぎていった


「 " Broooadway ' 」


テッドが誇張する様にそう言うと
フェデリコが
ミュージカル風にフリを付けながら唄う


俺がそれを聞いて思わず笑うと
一気に全員俺を叩き出して、一緒に笑った