いばら姫






――― 屋上


扉は開かれていて
海からの風が、一気に汗を冷ました


揺れる洗濯物と
鼠返しになった緑色の鉄柵
その下のベンチ


アズは椅子には座らず、網を握り
階下の景色を見詰めている





「… 西、
あのジーンズの女 、ナンパするべ 」


「 うひゃ
…でもよく、屋上にいるって判ったな」






―― 後ろから両側に回り、肩を抱く



「お姉さん、どこ行くの? 」

アズはくるっと振り向いて

「 アメリカ 」



「アホ!それじゃ終わっちゃうべな!
断るにしても会話を少しは楽しめよ!!」

「 ええっ?!

あああ!!淳!電話どうなった?!」



「… 来いってさ

けど、まだ暫く旅行が続くから
一先ず、東京にある
相方の吉田さんの仕事場に
来てくれって」


「 ホントに?! 」


「 淳 ちょっと俺、トイレ行ってくる 」




西は自分の持っていたタバコを俺に渡して
そそくさと階段を降りて行き
俺はアズに支えられながら
ベンチへと座った





――― 何回かライターを擦ってやっと火が着いて


最近一ミリに変えたと言う、
吸った事が無かった銘柄のタバコは
やたら甘い香り



――― 思い出すと
指が震えて、タバコも震えた



「…… アズ 」


「 うん 」



「――― ありがと… 」