いばら姫






――― 聞こえて来たのは



青山の静かな
「……あずる…? 」と問い掛ける、低い声



「―――救急車は?」と
何度も繰り返し
だんだん震え出した、真木の声


人垣の隙間から

膝を突き
簡易の酸素マスクをした『Azurite』を
当たり前の様に抱きしめる青山と

彼女の手を必死に握る
今にも泣き出しそうな、真木の横顔



――― 梅川医師が、傍に居て
その緊迫感の中で
一人だけノホホンと、微笑みを見せる


「 暴れ過ぎただけだから平気だよ
……ほおら、 目を醒ました 」





人垣は、安堵の歓声を挙げ
『Azurite』は その声を聞いて
弾かれる様に、体を起こす

池上がすかさず差し出した
チョコレートをかみ砕き
スポーツ飲料をラッパ飲みして
唇をグイと拭いた


「…ウイッグと、ドレス下さい!」

待機していたスタッフが
一斉に仕度に取り掛かる


数分しないうちに、彼女は長い
緩くウェーブした髪の
青いドレスの『Azurite』になり

強く碧い瞳を真っ直ぐに見据えて
ステージへの階段を、一気に駆け上がった