いばら姫



店内は

高い天井に、青い光沢のある
布がいくつかさがっていて
照明は暗め

黒い木枠と、和紙で統一されていて
カウンター席は満員


店員と話している
仕事帰り風の客も多く
"場を楽しんでいる"感じがあって
雰囲気が良い


明るいカウンターの中から
大勢の"いらっしゃいませ"が
降って来たしね





「二階は座敷になっておりますが
どうなされますか?」



薄い顎ヒゲに、丸眼鏡
赤い布で頭全体を巻き
後ろで縛り
白い割烹着に赤いエプロンの店員が
お辞儀をしながら現れた



「あ、座敷のが好きだな
Ma……岡田君、座敷でいい?」

「いいよ」


「…どうしても本名より
先に出ちゃうよね」

階段を上がりながら
小声でそういう新原に

「確かにね」と
俺も笑う



階段の壁には
誰が撮ったのか、いくつもの
額に入った写真が飾られていて


それは外国の街の
パーティーを映した物らしく

おばあさんにキスする子供

生まれたばかりの子供に
ほお擦りをする大家族――



二階の座敷に通され
席に着いて注文を言った後

お辞儀して去る店員を引き留めた



「すみません 」

「はい 」


「…あの、壁の写真
いいですね
ここの店長さんが撮ったとか」

「あ、店長、私です」


「あ…申し訳ありません
随分お若いので…

すごいですね」



「いやあ やりたい事が
昔から、これだったもんで

後、あの写真を撮ったのは
私では無いですよー

友人が旅先から送ってくれた物を
店に飾っているので…

今は有名になって、
でも、たまにふらりと
やって来てくれます」


彼はそう言ってお辞儀し
階段を下る




同時に運ばれていたお通しに
箸をつけると新原が

「…やっぱり、写真、気付いたね」

そう言った

「……え…?」




「池上海平

『Azurite』
"空の表紙"のプロモーションビデオを
撮影した人

そして あずの
昔のバンドの、仲間だった人だよ」