「もう! なんなのよ!!
こんな後ろって、有り得ないんだけど!?
チケット取ったとか誘うなら
前の方って、当たり前じゃない?!」
カツカツと階段を昇って来た
カニちゃんナイズな女
―――その甲高い声で
我に返った
その後ろから、金髪の
ちょっとVシネマ入った男が
うなだれたまま歩いて来て
ションボリと、俺の横
彼女の発言で
何となく二人の事情が伺えて
ハシバも、苦笑いしている
「 あ 」
「 …どうしました? 岡田さん 」
「 …これ 」
―――― 結局、西とアキには
渡さなかったチケット
ハシバの耳に顔をつけて
ドンと胸にチケットを押し付けた
「…ヨロシク ハシバさん 」
「――― 了解しました 」
ハシバはニヤッと笑って
オーバーアクションで
Vシネマ男に、頭を下げる
「…申し訳ありません!!
こちらの手違いでした!!
さささ!御席の方へご案内します! 」
「え…え?!何?!」
何事かと慌てるカニちゃんの背中を
グイグイと押して
ハシバはまだ混雑している人波を
エスコートしながら越えて行く
「お、おい!!!」
追い縋ろうとする
Vシネマ男の胸を制止して
チケットを指に挟み、目の前に出した
「…カノジョに良いトコ見せなよ 」
男はかなり目を見開いていたけど
引ったくる様に取ったチケットを
胸に抱いて
「 ありがとう!!! 」と叫び
スーツを翻して、後に走っていった


