―― 確か『ハシバ』だ
新宿Jemuでの警備のリーダー
痩せた係員の時には
威勢の良かったそいつも
ハシバの姿を見た途端、小さくなる
ハシバの目が、クッと方向を変えて
俺の姿を捕まえた
破顔と言っても良い感じでお辞儀し
机を回り込んで、俺の横へとやって来る
「岡田さん!お久しぶりです!」
「…こんばんは 良く覚えてましたね」
"覚えましたから"と
にしゃり と笑い、
――― 少しその位置から周りを見回すと
トランシーバーで"異常ナシ"と
どこかに呟いた
『…岡田さん 関係者席ですよね?
案内しますよ』
アズに貰った、
群青色のチケットを見せ
案内されるまま、最前列
ステージとの近さに、皆興奮している
――― ふと気付き
質問してみた
「…ハシバさん
この席って、どこら辺か、判りますか? 」
新たに財布から取り出したチケットを
失礼、と言った感じで覗き込み
「こちらですよ 」と
そのまま握って、係員に挨拶をし
通過した
―――― 案内されたのは
やはり座席の、一番最後尾の真ん中
座席を割った中央を通った
通路のすぐ脇だ
最前列、
その前に並ぶ関係者席の客が
豆の様に小さい
その関係者席との違いに
かなりムッとする
「…良い席ですね これ
岡田さん、自分で取ったんですか?」
「……え? 」
何を言ってるんだろうと
あからさまに、嫌な顔を向けてしまった
「あ、いや
……確かに最前列に比べたら
ステージの人の大きさは小さいですけど
少し、見回してみませんか
――― ここからの景色 」


