いばら姫







「…… 何それ 」


スーツに手を通しながら笑う

顔は平静を装っていたけど
心臓が音を立てた

―――こめかみが
少しグラグラするのは酒のせい



「…皆、気が付いてないけど
俺はわかってたよ 淳

ミチルさんが東京出る時
俺に言って行ったんだ

『淳が、映画撮る時は
協力してやってくれ』って


淳が映画撮ってるなんて
知らなかったけど
…ああ、やっぱりなあって

―― 言いたくないけど
淳、お前がホストやったら
確かに成功すると思う


けどお前、本当はそういう所から
一番遠い奴だ

駆け引きとか、女と遊ぶとか
全然しなかったし

――― ガキん時からそうだったべな


転校して来た奴、
ひとりぼっちの奴
先頭になって声かけるの、淳だった

裏山に秘密基地、
最初に作り始めたのも淳だし
皆に『ハックルベリーフィン』の話
そこでしてくれてさ…

その瞬間

裏の川は、"ミシシッピー"に
ほら穴は、
"インジャンジョーの洞穴"に変わった

自己チューな所があっても
皆がおまえについて行ってたの
淳がいつも違う世界
見せてくれてたからだ…」







「だいぶ変わったか」


スーツに差し入れた手を
何回か握る



「…淳はずっと
捜してたんじゃないのかな

そんな頃の自分に
戻してくれる子の事を

あの重い屋敷の窓、開いて
―― 同じ空、 見てくれる子を」