いばら姫






――斜めの手摺りは閉じられ

闇の中には
これから起こる事に期待している
何千の観客達がうごめく



青と紅の
激しいライトの点滅

足元で声を挙げる人間達を見下す様な
マイクスタンドを握る灰谷の
灰色に冷えて見せた視線


黒いSinkerみたいな
ドラムのリズムが降って来て
蜘蛛の脚の様に
無尽に動く、ギタリストの手


――― 体の中心に残る様な
ベースの低音は
演奏する曲によって、動きが変わり

浅く、甘く響くかと思うと
途端に姿勢を反し
荒々しく正確に、楔を撃ち込む


汗をかいた胸下に、ネックを横たえ

節からの先が長い
律動を繰り返す指先は

腰の上で揺れる
括れた影と、弦の上を
滑る様に移動する―――



―――青山は
曲の最後に
甘く鳴いたベースを抱き
愛しそうにキスをして

……ベースを何故か
体から離して床に置き
ステージをゆっくり、後にした




一瞬

観客席がざわめく


「…なんで? 」と何処かから
軽い悲鳴の様な声

「…青山、いつもあのまんま
ベース持って、戻るよな?」