いばら姫





マンションの入口の
ぼんやりした丸いライトと
街灯のあかりで
ここは比較的明るい



―― 服の中は
酷い事になっているだろう事が
予想出来る、スーツの皺


"真木"は
アズと一緒にいる俺を見て
一瞬、不思議そうな顔をしたけど


「ボウズ…
岡田さんと知り合いだったのか」

アズの無事を確認した
安堵の表情
すぐに傍に近寄って来て
頭を下げる


―――"真木"の顔を見て
アズの体の力が
抜けて行くのが判った

それに対して、激しい怒りが沸く



「真木ちゃん!
やっぱりここに……あ 」

捲くり上げた
白いYシャツの袖からタトゥー
少し長めの髪から覗く両耳には
大量のピアスが光る

肥えている割には
軽快な走りで
その後に続いて到着したのは丸眼鏡



「……見事にオトコばっかりだな
アズ 」


半分意識が飛んだ様になったアズは
それに答えない


代わりに
その言葉の響きに
何か感じたらしい"真木"の空気が一変し


――― そして徹底的に
俺の存在を、無視し始めた


隙を見たみたいに
あっさり俺の腕から
アズを奪うと

眠くなった
妹か子供を抱えるみたいに
両手に抱え込み
肩にしがみつかせた




――――― 途端にアズが
大泣きする






「あー ウルセーー

…馬鹿野郎
言えばすぐにだって
連れて来てやったのに…

え? …怒らねえよ

それよりオマエ
思い切りどっかで転んだろ
膝、割れてる」


「あ 気絶した…?」

タトゥーの主の言葉に
驚いた



「―― 寝ただけ
コイツ突然眠るから

オレ鍵あるし、上連れてっとく
青山戻る迄
まだ だいぶありますよね」

「うん 千葉への往復だからね」
丸眼鏡が答えた



"真木"は
「コイツ置いたら戻って来ます」と
ガラスの押し扉を進み
中に入ってしまう

―― 追い掛けられなかったのは
邪魔されたからだ