「あたし前乗れないよ?それ、分かって言ってんの?」
そう、紫音は後ろに人を乗せて自転車を漕げないから、前は乗れない。
幼なじみで何年も一緒にいるんだから、それくらい馬鹿なあたしだって分かってる。
コクンと頷くあたしに、紫音は呆れたようにため息をついた。
え?何でため息?
あたしには紫音がため息をつく意味が分からない。
「あたしが前に乗れないってことは、奈緒が前に乗るってことでしょ?」
「そうだよ?」
「あたしさぁ、奈緒と2人乗りしたこと、まだ3回しかないんだよね」
「そう……だっけ?」
「まぁとりあえずそうなの。それで、3回のうち3回とも途中でコケたの」
「あぁ、そうだね……って、え!?」
少しずつよみがえってくる記憶。
確かに紫音と2人乗りをしたとき、必ず途中でコケてケガをしていた。
あたしのせいで。
すっかり忘れていた。
あたしも実は、後ろに人を乗せて自転車を漕ぐことが………あまりというか、とても得意ではない。
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