「…平気?」
「ん」
短いやりとりを交わして。
鼻を啜る音がした。
それに視線を落とすと。
鼻の頭を赤くしている。
不意に。
気にならない程度に服を掴まれているのに気付いた。
自分が全く気付かなかったことに驚きつつ。
自然と笑みが零れていた。
「…なに?」
怪訝に見上げられ。
にこりと笑みを作る。
腕をゆっくりと持ち上げて。
簡単に離れてしまうと思っていた手は。
思いの他、強く掴まれていたらしい。
点のような掴まれた場所。
でも、離れなかった。
視線が合うと、するりと離れる。
「…性格悪……」
ぽそりと呟くと。
顔をマフラーに埋めて歩き出す。
―サク
足音と共に。
自分より一回り小さな跡が目の前を延びていく。
―サクッ
一歩を踏み出して。
その小さな軌跡を追った。
寒さで握られた手を取ると。
軽く睨むように見上げる。
「…何だよ…」
「こっちの方があったかい」
「あんまし変わんない」
「こういうのは気持ちの問題」
「阿呆か、意味ない」
そう言って。
つむじを見せて刺を投げる。
でも、それさえ照れ隠し。
ちらりと盗み見た顔は寒さの所為だけじゃなく赤かった。
くすりと笑みを浮かべると。
口を尖らせて叩かれる。
「…楽しかった?」
「…ん」
訊ねて。
素直に返す返事にまた笑った。
また真っ赤になって。
再び叩かれたのは言うまでもない。
「淡雪」 了