隣の席に座ることにしたのは、単に近くにいたいとか、仲良くなりたいだとかの生半可な気持ちではなく
敵を観察するには近くにいる必要があったのだ。
教科書をしまう時の癖、給食を食べる時の順番、字を書く早さ・・・
どこにヒントが隠されているかわからない。
クラスで『ねりけし』という物が流行った時、消しゴムのカスを集めてそれを練れば同じ物が出来上がるというデマが流れた。
佐藤君もそれを信じた一人だった。
彼は授業中も、先生の目を盗んでは消しゴムをズリズリしていた。
尚子は『ねりけし』の正体が『消しゴム』でないと知っていたが、
何日もかけて家での消しカス集めに励み、ビニール袋いっぱいの大量のカスを佐藤君にプレゼントした。
勿論、簡単に差し出したわけではない。
「これをあげたら何してくれる?」
と交換取引をしたのだ。

