「なあ」

背後からのサキの声に立ち止まり、振り返った。
俺は改めて驚いた。
薄い夕日が差すこの時間、サキは特に美しい。
オレンジに透けた髪の毛が、白い肌が、悩ましいほどに綺麗だった。


「ほなな、黒田ヨージくん。また新学期」


そう言うと、サキは今日はじめての笑顔を見せた。

思わず息が止まる。


このとき、俺は二重の意味で胸の高鳴りを感じていた。

あどけなさが残るサキの極上の笑顔の破壊力に。
そして、サキにフルネームを知られているという事実に。



サキはひらりと手を振ると、右の道へさっさと歩いていってしまった。
俺はその場から動けずに、ひたすら頭を巡らせていた。



言いようのない微かな罪悪感───そう、例えるなら美しい大きな蝶が自分の目の前で蜜を吸っているのを見たような感じ───を感じながら、俺はぼんやりしたまま行く気のないゲーセンへと足を向かわせた。