全部、君だった。



「そっかぁ……辛いね」


私は俯いて、それ以上何も言えなかった。

恋愛経験の乏しい私には、加奈子に何も言ってあげることができない。


せっかく私に相談してくれたのに…私はとても無力だ。



「雪枝は?好きな人、いないの?」


「えっ?」


加奈子の急な質問にしばらく頭が働かなかった。



好きな人なんて、今まで考えた事もなかった。


「うーん………」





「最近全然話聞かないけど…そういえば、細井君はどうなったの?」


しばらく考え込んでいると、加奈子がしびれを切らしたのか再び話しだした。


加奈子は体育館の舞台に座り、興味津々といった様子で聞いてくる。



「細井君?どうもなってないよー。別に好きだったわけじゃないし」


細井君は、5月頃にちょっとかっこいいなって思っていた隣のクラスの男の子のこと。


かっこいいなって思ってただけで、それ以上の感情なんて全くなかった。



「ふーん、そっかぁ…。
気になる人とかもいないの?」


なんだか探るような聞き方だ。


「気になる人かぁ……」



そう呟いた瞬間、頭に浮かんだのは桐山先輩だった。




「桐山先輩……かなぁ…」


何とは無しに口から出てきた。

今まで桐山先輩の事を明確に気になる人だと思っていたわけではないし、
誰かに話すのも初めてだけど…やっぱり気になるのは事実で。



加奈子の驚いた顔が、見なくても簡単に想像できた。





「……お互い辛いね」


加奈子が弱々しく笑った。



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