一一それが、引き金だった。


全ては一瞬にして起こり、あまりにも呆気なく終わった。




「あ、ごめっ」


絢音の手のひらに乗せようと思ったネックレスは弾かれたように手のひらから逸れて地面に落ちた。

金属特有の鈍い音を発しながらネックレスが落ちた場所は横断歩道だった。

真斗は歩きながら絢音に渡そうとしたため、当たり前のようにネックレスは真斗と絢音の数歩後ろに落ちた。


「っ今、拾う!」


素早く言葉を放ち、駆け足でネックレスが落ちた横断歩道へと戻る。

さほど遠い距離ではなく、直ぐにたどり着いた。
屈み込んで掴み、鎖に傷がないか入念に見る。

多分幼い真斗には、これを傷つけてはいけないという意識があったのだろう。
ネックレスを傷つけることは、絢音の両親に傷をつけることと同じ。

おそらくは心の何処かで無意識にそう認識していた。


だが、真斗のその認識と行動こそが、全ての悲劇を招く事になるなど、誰が予想できようか?