部屋に入ってまず初めに鼻についたのは陽光の乾いた香りだった。
優しく身体を包んでくれるような感覚を覚えて、真斗は肺いっぱいにそれを吸い込んだ。
吸い込んでから気付く。これが早綺の香りなのだと。
「…お久しぶりですね」
こんな風に面と向かって話すのは、と心で続ける。
事実、早綺の瞳を見て話しをするのは何日かぶりだった。
早綺はベッドの脇で直立不動で木のごとく突っ立っていた。
大きな目を瞬いて、まるで見てはいけないものを見てしまった様な、そんな顔である。
「…そうだね。久しぶり」
結局、早綺から返ってきた言葉は極々普通な言葉だった。
一一妙な緊張感が走る。お互いに言いたい事が沢山あるようだが、それを声に出来なくて、妙に気まずい。
真斗はさんざん何から切り出そうか迷ったが、あげく
「座っても宜しい、ですか」
という差し支えないと言えば差し支えないが、少しこの場には物足りない一言を放った。

