昴の空いていた手は早綺の頬を撫でる。
それが以前の昴と同じような、優しい壊れものを扱うような手つきで、早綺は悲しみが込み上げてきた。
もう、この手にこうして撫でられる事はないのか。
本心では嫌だと、離してと叫びたいところなのに、意に反して身体は言うことをきかない。
心の奥底で、この手を欲しがっている自分がいるのだ。
まだ己の知っている昴がいると。そう思いたかった。
「もうお前はいらない。俺には必要ないんだ」
けれど、現実とは時に残酷で、あっさりと早綺の一条の希望を打ち破る。
耳元で甘く、猫なで声で囁かれた声は早綺の耳朶を打ち、脳を冒す。
「アメリカである女に会った。樫原財閥と同等か、それ以上の地位を確立している富豪の娘にな。
そいつは俺に従順でな…少し優しくしたら直ぐにおちたよ」
昴は一層顔を近付けて言う。
「力の大きさは同じでも、未熟な世間知らずな女より、従順で単純な女の方がいいだろう?」
そう言って昴は嫌らしく口元を歪めた。

