「確かに私は貴方のことを好いていました。
何時でも気さくに話しかけてくれる貴方が……。
本当に好きだった。けれど」


早綺の言葉に昴は素直に聞き入っている。

だが、けれどーーと早綺が後の言葉を放とうとすると昴からの罵声が降ってきた。


「気さく?はっ。そんなもの演技に決まってるだろうが。
俺はお前のことなんて何も見ちゃいないよ。俺が興味のある事は樫原の富と名声。それだけだ。」


そのためにお前にわざわざ近付いたんだよ。


続けられた言葉は今にも増して早綺の心を傷付けた。

これまでの全てが演技だと言うのなら、早綺が慕ってきた昴も嘘となる。


あぁ。そうか。


早綺は悟った。

地位や名声以外に、早綺を求めてくる人など、いないのだ。


「最初はお前を取り込んで結婚すれば簡単に財産が手に入ると思っていたんだが。
その必要が無くなったからな」


勝ち誇った笑みを浮かべて、昴は掴んだ早綺の左手をより強く握る。

痛みを通り越して痺れていた手は最早何も感じない。否、感じられなかった。