早綺には未だに現在の光景が信じられない。

いや、信じたくないだけかも知れない。


長年、昴兄様として慕ってきた人がこんなにも残忍な表情をしているなどとは。

たまにしか会えないから二人でいる時間を大切にしようと、そう言ったのは紛れもない目の前の昴なのに。

あの時の包み込むような穏やかな表情は今の昴からは微塵も感じられない。


確かに早綺は昴を慕ってきた。
慕うなどと簡単には片付けられないくらいに。

家柄にしか興味の無い人達とは違い、昴は純粋に早綺と接してくれていた。
そう、思っていたのにーー。



本当は泣きたかった。
涙を流して、感情に任せて昴に毒を吐けたらどれだけ良かっただろう。

そうしたら、このやり場のない気持ちも収まるだろうか。


それでも、早綺は泣かなかった。

しっかりと昴の視線を受け止め、意志を込めた瞳で見据える。


早綺が好きだった男は、もうここにはいない。