「夜空を見に行かないか?」


早稀が昴にそう言われて、テラスに出たのはついさっきの事。

そして訳も分からず、壁に押し付けられているのは現在の事。


昴の秀麗な顔が目の前にあって早稀の鼓動は早鐘と化す。

けれど、その表情はいつもとは少し違う。

早稀は違和感を覚えて眉をしかめた。


昴に掴まれている左手が痛い。


「あの…。昴にい、さま…?」


雰囲気が凄みを孕んでいて、上手く呼吸が出来ない。

おずおずと問うても昴からは反応が返ってこない。


「昴兄様?」


そう呼び掛けて早稀は昴の肩が震えていることに気付いた。

小刻みに上下に。
不気味な笑い声と共に。