「お父さん!説明を求めます!!」


真斗が何度も先程のやり取りをリピートしていると、隣に座っている真斗の妹ーー岬ーーが興奮して立ち上がり、父親に向かって楽しそうに話し掛けた。

身を乗り出して問うてくる娘を見て、さらに気を良くした父親は
「よくぞ訊いてくれたな、岬。今度からお小遣い300円アップしてあげよう」
と馬鹿丸出しの台詞を放った。


お小遣いアップと言われて、純粋に喜んでいる10才の妹を見て真斗は少しだけ、可哀想に思った。


「実はな、ここだけの話だが…」


身体を小さくして内緒話とばかりに小声で話し始める父親。

その隣で楽しそうに、それはもう楽しそうに耳を傾ける妹と母親。

そして、拳を握りしめ、呆れ顔で三人を見詰める真斗。

この時の真斗には呆れるという選択肢しか無いようだった。


「お前達には言ってなかったんだがな。実は父さんあの樫原財閥(かたぎはら)の現会長と友達なんだ。もの凄く仲がいいんだぞ。
それで、この間飲みに行ったんだがな…」


おもむろに話し出した父親を横目に真斗は呆れを通り越して、最早なにも感じていなかった。

それは、自分の父親がどれほど面倒な人であるかを知りすぎているからで、父親に話をさせたら最後。
止めることも、逃げることも出来なくなる。


案の定、それからの父親の話といったら長いの何の。
時々自分の自慢話も混ぜて話してくるから余計に時間は掛かるわ、真斗の苛々は増幅するわで散々だった。