今日から執事



だが、主に買ってもらうというのは何だか不思議な感じだ。

お嬢様が執事の服を見立てて、しかもお金を出す…。
何故だか落ち着かない。


「それより、これから私のドレスも見に行きたいの。一緒に来てよね?」


真斗が、この買い物は必要な物で執事なら仕方がない事だ、と内心納得していると早稀が店員から受け取ったスーツを真斗に渡しながら言った。

来てくれる?ではなく、来てよね?と言うあたりがお嬢様らしい。

有無を言わさない響きがあるにもかかわらず、訊く、という姿勢は崩したくないらしい。


真斗は喉の奥から出かけた笑いを押し込め、仕方がない事だ、と再び内心で納得すると差し出されたスーツを受け取った。


「仰せのままに、早稀お嬢様」


真斗は手を胸に当てて、頭を垂れる。



早稀はそれをただ呆然と眺めているだけで。

真斗の瞼は伏せてあり、真斗の長い睫がよく見えた。

早稀は真斗の穏やかな表情を見て、顔が朱に染まっていくのを感じた。


今までとは正反対の、愛しむような表情だったから。
頭を垂れたその姿はまるで姫に忠誠を誓う騎士の様で。


あまりの出来事に早稀は驚きと照れを隠せなかった。


「…ずるい」


呟きは小さく、真斗に聞こえるか聞こえないかの境界線だった。

けれど、しっかりと真斗の耳には届いていて。

伏せた瞼の奥で真斗の瞳が揺れた。