「早稀お嬢様。
いい加減起きて下さい」


カーテンを開くと陽光が部屋を満たした。
外は晴れやかな、雲一つない空で自然と気分が良くなる。

だが、真斗の目の前の女は気分が良くなるどころが不機嫌になる始末だ。
まだ寝足りないとかなんとかぼやきながら、薄手の掛け布団を頭まで引っ張る。


「もう朝食は用意されています。
これから出掛けるのですからお早く支度を」


ベッドの横に立ち、早稀を見下ろすようにして真斗が言う。
すると、早稀は先程からは想像もつかない速度でベッドから起き上がり、真斗を見据える。


「出掛けるって何処に?もしかして例の…」

「違います。今日はパーティーだと昨日旦那様が仰っていたでしょう?」


早稀が例の…の後の言葉を言うより早く、真斗は否定する。
すると早稀は面白いくらいに項垂れ、再びベッドに戻ろうとする。

真斗は彼女の腕を取ってそれを制した。もう一度寝られるなど、たまったものじゃない。


一体お前は何歳だ。


そう思いながらも表情には出さない。


「ですから、今日はパーティーがあるのです」

「だってパーティーは夕方からでしょう?
こんな朝から起きる必要なんて無いわよ」


至極真面目に言うものだから、真斗は思わず笑いそうになる。

確かに今からパーティーに備える事には真斗もいささか疑問を抱くが、それにしても、どこの世界にこれほど怠けたお嬢様がいるものかと不安になる。