急に肩を落としてしみじみしているものだから、体調でも悪くなったのかと思い、真斗は早稀の顔を覗き込む。
「お嬢様。どうされましたか?」
「っ何よ!?」
「いえ。急に元気が無くなられたので…」
そう言うと、彼女は口を真一文字に結び、右手を後ろに引いたと思えば次の瞬間、真斗は腹部に鈍い痛みを感じた。
見ると早稀の右手がみぞおちに入っていて、真斗は痛みに顔を歪める。
いくら女とは言え、何の警戒もしていない時に、みぞおちを殴られたら、空手経験者でも痛いと言うものだ。
その様子を見て、してやったりと柄の悪い笑みを見せる早稀。
それは何処からどう見てもお嬢様の笑顔ではなく、普通の少女の悪戯な笑顔で。
真斗は彼女のこういった表情は嫌いではないな、と思った。
「私の勝ちね。経験者から一勝取るなんて、私凄い!!」
空も飛べそうな勢いで喜ぶ早稀を見て、真斗は知らず知らずに声をかけていた。
「俺、早稀お嬢様のそういう顔嫌いじゃないです」
自分でも何を言ってるかよく分かってないが、口から言葉が踊るように出てくる。
「お嬢様としての笑顔より、今みたいな。
一人の少女としての早稀さんの笑顔の方が俺は好きです」

