ドアノブを未だ握ったまま真斗は思考を巡らせる。

自分は部屋に入っても良いのだろうか、と。

その前に屋敷内では具体的に執事は何をすれば良いのかが分からない。

だがまずは目先の問題だ。

真斗は早稀から預かった鞄を持っているのだから、どうしても部屋に入る他ないだろう。


「お嬢様。この鞄はどこに置けば」


良いのでしょうか、と続けたかったが、それは彼女の指によって阻止された。

彼女の指は部屋の隅にある棚を差していた。

どうやら棚の中に入れればいいらしい。

棚は衣装棚の様で、中を見ると、服がビッシリと詰まっていた。

半端のない服の量に驚きを隠せない真斗だったが、沢山の色彩の服を見ていると頭痛が襲って来そうな気がしたので慌てて鞄を服の横のフックにかけた。


衣装棚を閉じると様々な色彩は消え去り、代わりに棚の落ち着いた茶色が目に入ってきた。


俺の家ってそこまで貧乏じゃなかった筈なんだけど…。


あまりの違いに真斗は自分が貧乏なのかと疑い始める始末だ。