時は遡ること約1ヶ月前。


「なぁ真斗。お前確かバイトしたいって言ってたよな?」


久しぶりに家族全員で夕食をとっていた時だった。真斗の父親である彰史が急に切り出してきたのは。

父親がそんな事を気にするとは珍しいと、一瞬怪訝に思ったが、別に訊かれて困るようなことではないので真斗は普通に答えた。


「まぁな。でもまだ何処で働くかは決まってない」

「そうか。なら、俺が良い所を見つけてきてやったぞ」


得意気に胸を張る姿に若干苛立ちを覚えたが、一応聞くだけ聞いてみようと調子付いた父親を促す。


「で、どこなの」

「ん?ああ。確か筑夜山っていう山の山奥にある屋敷…。
そこで、従者として働くって言ってたなぁ」

「はい?」


父親の言葉が飲み込めないまま、沈黙が続く。
てっきり、どこかの喫茶店やファミレス、CDショップなんかを予想していたものだから、全く事態についていけていない。


「…もう一度訊くけど、場所は何処?」

「筑夜山の山奥の屋敷」

「じゃあ、職業は?」

「従者。というか執事」

「その情報は確か?」

「間違いないよ。純度100%」


そこで一旦会話を断ち切った真斗は、情報整理に没頭し始めた。

何度も頭の中で反芻して理解しようとする。
父親がここまで言うのだ。嘘の可能性は極めて低い。

もちろん、これで嘘だと言われたらその時は父親の命は無いが。

その時、向かいの父親が「顔が怖くなってる」という呟きが聞こえたが無かった事にした。