お嬢様なのだから、しっかりした対応をしなければ。

と背筋を伸ばし、一端の執事には見えるよう努力しながら早稀お嬢様の元へと歩み寄る。

それに気付いたのか、単にこちらを向いただけなのか、真斗と早稀の視線が交わった。


彼女の射るような視線にぎくりとして真斗は一瞬足を止めたが、その場で一礼し、足を進めた。


「貴方はどなた?」


真斗が口を開くより早く、早稀が言葉を放った。
依然として壁にもたれ掛かったままの彼女は顔だけを向けて静かに問うた。


「本日付けで来ました、桐谷真斗と申します。
早稀お嬢様の専属の従者をさせて頂きます」

「そう、宜しく」


真斗の挨拶も早々に、いかにも当然とばかりに返事を返してきた。


この人、根っからのお嬢様なんだろうな。


真斗は思う。
証拠にこのお嬢様は無言で手に持った鞄を差し出している。


意図を読み取って鞄を受け取ると、早稀は何かを含んだ笑いを漏らす。
その瞳はまるで狩りをするライオンのよう。


「こっちに来て」


何を伝えるでもなく、早稀はそれだけを言うと一人で階段を上って行く。

その背中を真斗が追う。嫌な予感がするのは真斗の気のせいか。