「おい!真斗」
横から脇腹を小突かれ振り向くと神嵜が焦った表情で真斗を見ていた。
「お前、はよ早稀お嬢様の所行っときぃや」
「…どうしてですか?」
けろりとして訊く真斗に神嵜は呆れ顔を見せて、首を横に振った。
それに少し苛立ちを感じる真斗だが、意味が分からないので言い訳も反撃も出来ない。
最も、先輩と口論など絶対に嫌だが。
「お前もう忘れたんか?早稀お嬢様の執事やって言ったやんけ。
執事は主の荷物とか持つのが普通なん」
「ってことは…」
「そうや。分かったら早く行かんか」
そうか。
と初めて納得する。
確かにチーフも会話をしながら旦那様から荷物を受け取っていた。
周りの従者達もいつの間にか、それぞれの主の元で責務を果たしていた。
改めて真斗自身がどれほど執事という仕事を知らないのかを認識させられた。
屋敷に来たのは四人。
その内お嬢様と呼ばれるような人は一人しか居ない。
白いワンピースを着た、真斗と同い年か幾らか年下に見える、清楚という単語が良く似合う少女。
人目を引く容姿を持った少女は玄関の壁に背を預けて立っていた。

