その名前を耳にした途端、眼前のネクタイを眺めていた私の視線が上へと向く。



そっと見上げれば、前方の標的を一点に捉えるスナイパーの拓海の姿が…。




「その名前を出して、どうするつもりだ?」


「フッ…、いい加減に白々しいですね。

私が乗り込む時は、“ソレ相応の準備をした時”だとお解りでしょうに…」


「ッ・・・」


標的に対して嘲笑する愛おしいヒトのスーツに、堪らずギュッとしがみつけば。




「蘭…、ごめんな――」


「・・・え?」


「もう少しだけ…、待っていてくれ…」


「・・・っ」


すると瞬時にこちらを見下げた彼が、そっと私の片頬へと手を置いてくれて。



憂いを帯びた表情を見せられては、尋ねたいフレーズも消え失せてしまうの。




貴方を苦しませるのは、たとえ自身であっても許せないのよ…――



ぎこちなくコクンと頷いて、彼のスーツに凭れかかるように再び縋りつくと…。




「いい加減にしろ――!

ワザワザ見せつけるとは鬱陶しい…、大概にしておけよ…?」


そのトキ怒号とともに、ギシッと革張りのソファを豪快に立つ音が響いた。




再びピンッと、張りつめた空気が一気に蔓延していく・・・