だけれど恐怖に屈するコトなど、もうしたくもナイ・・・




キモチとは裏腹な本心によって震える手を、キュッと固く握り締めてから。



手鏡を持ってメイクとヘアを一瞥すると、秘書としての装備の確認を終えた。



閉ざしていた扉を開ければ、真剣な瞳を書類へと眼を向ける拓海を捉えて。




「社長、…時間でございます」


「分かった…、行こうか」


ドキリと急上昇する熱を抱きながらも、誤魔化すように一礼をした私。



颯爽とジャケットを羽織るポーカーフェイスの彼に、痛みを帯びていく心。



そんな感情には眼を瞑りたくて、先に社長室を退出しようと歩み始めた…。




「佐々木さん、ちょっと待って」


「・・・っ」


すると逃げようとする私を制して、ジャケットの内ポケットを探った彼は。



小さなアトマイザーを手に、私の頭上へとミストをプシュッと噴射した。




たちまち辺りには、爽やかで甘い香りが立ち込めていく・・・




「佐々木さんは俺の秘書、だろ…?

アイツの香りがするのは気に入らない」


「・・・っ」


色をなしたブラウンの瞳で見下げられ、ホワイトムスクの香りにも包まれれば。



このドクドクと煩い鼓動を止める術なんて、私にはナイのに・・・