手を繋いだままに、エントランスへと足を踏み入れていく社長。
何度となく手を離して貰おうと試みたものの、なす術もなくて。
ささやか過ぎる抵抗はドアを前にして、呆気なく幕を閉じたのだ。
「しゃ、社長、おはようございます…」
「おはようございます!」
誰かの上擦った声を皮切りに、続々と始まった恒例の挨拶。
「おはようございます」
トップの風格はそのままに、笑顔を浮かべて返す社長。
その隣を行く私は、いつものように俯くコトしか出来ずにいた。
周囲からは当然の如く、好奇と嫌悪の視線が降り注がれていて。
どことなく圧し掛かるプレッシャーに、恐怖を覚えてしまうから。
“ちょっと、何あれ!?”
“何で手なんか繋いでるのよ!?”
会社に一歩足を踏み入れれば、中傷なんて日常茶飯事だけれど。
今までは秘書として、彼の背中を追う毎日だったから当然だね。
突然に社長と手を繋いで出社だなんて、不自然な光景だと思う。

