診断直後の頃は、状況を受け入れる辛楚さに押し潰されそうだった…。



愛おしいヒトを前にして、何処までも果てしなく遠くに感じてしまって。



他人行儀な振る舞いをするコトが、あまりに息苦しくて泣いてしまいたかった。




それでも弱い私を奮い立たせてくれたのは…、愛おしい貴方だったの…――




「佐々木さん・・・

サイパンにいながら病院通いをさせて、申し訳ないな…」


「っ…、い、いえ…!

私は社長が良くなって下さるのなら、どんな事でも致します」


「フッ…、ありがとう」


「・・・っ」


“眼前に何よりも大切な命がある”と…、一番大切なコトを気づかせてくれた。





「それじゃあ、気をつけて帰って来いよ?

コッチで“2人の帰り”を待っているから」


「っ、はい、ありがとう…、ございます!」


桜井さんのエールを受けて電話を終えると、バルコニーへと向かって行く。



本来の主を迎えるコトなく滞在を終えた、スイートルームからの景色を一瞥する。




私という存在を忘却して…、このまま思い出せなかったとしても。



ゼロ地点に舞い戻った事実に嘆くより、未来を信じて傍に居続けたいの…。




愛しい清涼な声で再び、“蘭”と呼んで貰えるように・・・