大好きな声で“佐々木さん”と呼ばれたコトで、途端に息苦しさを覚えて。



まるで呼び方に拒否反応を起こしたように、グッと胸が締めつけられていく…。




「社長は…、佐々木さんを誰よりも可愛がってますよ…」


偽りばかりで彩られていく空気の中で、杉本さんがフォローを重ねた。




冒頭に彼の口から出された、婚約者というフレーズを払拭する為に――



でなければ、拓海には“私の存在”に疑念が募るばかりだったと思う。



あまりに言葉足らずで、浅薄な取り繕いだもの・・・





「そうだったのか…、申し訳ない…」


必死に笑顔を作って隠し通すつもりのハズが、表に出ていたのだろうか。



それとも人の顔色や考えを、瞬時に読み取れる拓海の能力からか…。



ブラウンの瞳は私をジッと見据えたあとで、他人行儀なお詫びをプラスした。




「っ…、い、いえ…。

た…、しゃ、社長に謝って頂く必要など・・・」



その万人に平等な優しさが、鋭利な刃物で貫かれるほどの威力があるのに…。




杉本さんが節々で籠めてくれた言葉の意味を、拓海が理解するコトはなくて。



矢継ぎ早に紡ぎ出したウソも、パニックからだと収まってくれたけれど…。




この瞬間から、近いようで遠いカンケイが形成されていたのね・・・