嵐の前の静けさのような落ち着いたトキに安堵し、絆されていたせいで。
貴方への信頼と手に入れ掛けていた自信が、まさか揺らぐと思わなかった。
ううん…、そんなコト考えたくなかったよ・・・
ホテルが自宅から少し遠い分、会社までの道程は時間が掛かったけれど。
一緒にいられるコトが嬉しくて、いつもよりトキが短く感じたほどだった。
そうして東条グループ本社、別名“拓海キャッスル”を捉える頃には。
瞬時に拓海の表情が締まって、社長としての顔つきに様変わりした。
「っ・・・」
精悍な横顔にドキッとするなんて、やっぱり不謹慎かもしれない…。
心を落ち着かせようと軽く呼吸を整えて、眼前に迫る自社ビルを見つめた。
昨日の今日だからか、今後については何も触れなかったけれど。
こうして出社した以上、社長と秘書という間柄は変わらないと思う。
そうだよね・・・?
そのまま車をエントランスに横付けして、軽快なエンジン音が止まった。
主君である拓海を乗せたランボルギーニが、一旦役目を終えたのだ。