愛ノアイサツ

部屋でヴィヴァルディの四季を聞いているとトントンとノックが鳴って看護師さんが入ってきた。

「雪乃ちゃん、お電話よ?」

「あ、はい。それって・・・」

「お父様からみたい。あとでかけなおさせるって言っちゃったんだけど。」

「はい、ありがとうございます。」

お父さんから電話なんて珍しい。でも、あんまり嬉しくない。だって・・・

私は公衆電話の少し重たい受話器を耳に当て久しぶりに父親の携帯の番号を押した。

『雪乃か?』

「はい、お久しぶりです。」

電話の向こうで無機質な父親の声が聞こえた。淡々としていて、昔から変わらない。

『体のほうはどうだ?』

「最近は少しいいです。検査の結果も悪くありませんでした。」

『そうか。』

無感情な声は娘に対しても一緒なのだと思ったのはずいぶん昔。今はそれを当然と思っているけど。

『前から出ていた話だが、高宮コーポレーションの高宮氏との婚約が早まりそうだ。それは知っているな?』

「はい。」

私には許婚がいる。私よりも10歳年上の父の提携先の会社の息子さん。何回か会ったことはあるけど、まじめでびしっとスーツを着ていた。私のすごく狭い見識からだけど、この人を父と同じ分類に入れた。無感情で、頭の中は会社のことでいっぱいなんだろうな。父親どうしが決めた話でそんな人が婚約者ってことになった。所謂政略結婚っていうのかな。本当はもっと早く式を挙げたかったみたいだけど、私の体がこんなんだから見送ってきたみたい。でも、それもそろそろ終わる。

『今度いろいろ話したいことがあってそっちに来られるそうだ。常に失礼のないようにしておけ。』

「はい。」

電話が切られ、ツーツーと受話器が鳴った。10円しか入れてない通話時間は私とこの人との会話には十分なんだ。最後に会ったのがいつかなんて覚えてもいない。

私は暗い気分のまま自分の病室へ帰った。