街の一角にある小さな喫茶店。

それほど賑わう訳ではないが、落ち着いた雰囲気のこの店を気に入っている常連客もいる。
私もこの店が好きだった。


いつもと変わらない毎日。

今日もいつもと同じように、カウンターに頬杖をついて暇を持て余していた。

そこに一人の少年が入ってきた。

初めて見る顔。

ここに来るのは常連さんが主なため、知らない人が来るのは珍しい事だった。

顔つきからして私より年下のようだ。
高校生だろうか。

少年はカウンターの端っこの席に座った。

「ブラックコーヒーひとつ。」

トーンの低い大人っぽい声で注文した。



顔はいい方だ。きっとモテるに違いない。

頭の中で勝手に推測して注文通りにブラックコーヒーを出す。


カップに手を伸ばし、コーヒーを飲む彼の表情を伺う。

口に合うかな。

コーヒーは私がいれたものだが、いくらいれ慣れていてもお客さんが口にするときは緊張する。

しばらくして、少年が口を開いた。

「あんたがいれたの?」

「え、あ…はい」

ふぅん…と返して、少年は視線をコーヒーに戻した。
ま…不味かったかな?

ビクビクしていると少年は視線を下に向けたままぽつりと言った。

「……美味しい。」


あ…

「…ありがとうございます…」



しばらくボーッとしていたと思う。

気がついたら彼はまた来るよ、と残して店を出た。




やけに鮮明に記憶に残った。