「あら、こんにちは、渡辺さん」

声をかけてきたのは、クラスメイトの渡辺夏奈子だった。横には、その友人の安西梨美が会釈する。

「私の名前、覚えててくれたのですか?」

「当たり前です。クラスメイトでしょ」

「わぁ、嬉しい」

「そんなに喜ばないでよ。私が、自分のクラスメイトを知らないみたいじゃない」

私は、そっと笑って言った。

「違います!すみません。日和さんが覚えないとか、そういうのではなくて、私達、日和さんとお話なんてできないと思ってましたから、今日は、合格していて嬉しくて、だから、勇気をだして声をかけました。日和さんは、高嶺の花ですから…」

「そんなことないわ、とんでもない」

「いいえ、そうなんです。憧れです。目標にしてます」

「まぁ…有難う…なんだか、恥ずかしい」

「いいえ…」

「あっ、合格でしたのね、おめでとう」

「あ、有難うございます」

彼女は、酷く恐縮した。

「中学も、また同じね。宜しくね」

「え、あ、こちらこそ宜しくお願いします!」

「堅いなぁ。そんなに堅くならないで。じゃ、また。ごきげんよう」

私は、車に乗った。

窓から見ると、彼女は、丁寧に会釈をしていた。

私は、ふと、ある言葉を思いだした。

【相手は自分を映す鏡】

私は、まずは、自分からと思い、車が発進すると、車の中から彼女にそっと手を振った。

彼女は、慌てた様子で、遠慮がちに小さく手を振り返した。
顔は、酷く驚いていた様子だったが。

車は、直ぐに彼女から遠くなり、彼女は見えなくなった。