かつて、知り合った当時の裕子と加奈の行きつけのスナックに、倉澤はいた。


『うちの嫁はヒステリックですから・・・・


そうですよ、大変な目に遭いましたからねぇ・・・


嫉妬深いのも行き過ぎると辛いですよ

愛されてる? あんまり重たいのもちょっと・・・

今? 薬飲んで寝ているでしょう、まぁ、いつものことです


仕事も家事もなんにもできない人なんで



離婚? いや、それはしませんよ

愛していますよそりゃあ、彼女は可哀相な娘なんですよ

見捨てるわけにはいかないじゃないですか・・



〔僕は男ですからね・・・〕

「さっすが倉澤社長、偉いわねぇ・・・」



店を出た途端、雪が降ってきた。


『あーー さみぃ、ちきしょう・・・』


倉澤は、ふと、今朝の裕子の顔を思い出した。


珍しく、少しだけ微笑んでいたように見えたのだ。


(酔ってるせいかもな・・・)

なんとなく、ひっかかるものがあり、足早にマンションへ向かった。

(あー、なんかイライラするぜ・・)


部屋の鍵を入れていないのにノブが回ると、倉澤は不安にかられた。

(逃げたのか? いや、中に気配を感じる・・・)


静かに中に入ると、リビングの奥に、裕子の後ろ姿が見えた。


『裕子??おいっ!てめぇ、脅かすんじゃ・・・





女がゆっくりと振り返る。




そこにいたのは、裕子ではなく能面のような顔をした、彼女の母親だった。