〔何かがおかしい。 私の知っている直哉はあんな人ではなかった・・・〕
裕子は直哉に不信感を募らせ始めていた。
〔しばらく母のところで頭を冷やします〕
メモを残し、実際にはビジネスホテルに泊まることにした。
母に話せば心配をかけてしまう、「すぐに別れなさい」と言われるかもしれない。
どちらにせよ、裕子の目的とは違う。
夜、夫からメールが届く。
『僕は君の気持ちと、犬のことをよく考えた上、最善の方法は里親を探すことだと思っただけなんだ。
アレルギーで飼えないなら、飼える人に飼われた方が犬も幸せだと思ったから。
出ていくなんて信じられないよ。
裕子、早く帰ってきて。
死にたいぐらい辛い。
裕子は僕がいなくなっても平気なんだね?』
裕子は、目を閉じて可愛い愛犬のことを思った。
そして、矛盾だらけの主張ばかりをしてくる愛しい夫のことを思った。
一晩帰らずに眠らずに、一日中それを繰り返していた。
そして翌日、母の所へ相談に行った。
犬は、渋々母が引き取ることになった。
そのためには別のマンションを借りると言い、母は引っ越しを決めた。
家へ帰ると、平日なのに会社を休み、昼間から酒を飲んで酔っ払った直哉がいた。
裕子がいなくては仕事なんか手につかないと、臭い息を吐きながら擦り寄ってきた。
『裕子、愛してる・・・』
そのまま三日間、直哉は会社を休み、裕子にベッタリと絡み付くようにして過ごした。
明くる日の晩、会社へ迎えに来てくれという夫に母の引っ越し費用の話しを夫にすると、
『俺が会社行かなかたっから大変なことになってるんだよ。
お前が面倒な騒ぎ立てをするからだよ。
男は外で一生懸命頑張って働いてるんだよ。
これ以上、余計なことでイライラさせないでくれよ』
「ご、ごめん・・なさい?・・」
部屋でこれから二人きりになることが怖くて、つい反射的に謝ってしまった。


