やっとのことで安楽椅子に支えてもらいながら立ち上がると、脱出しようと扉に目を向けた…

…が、顔をあげた瞬間に顎髭の男が目前に立ち、青白い顔で血走った目を男に向けていた。
「…あ……。」
力なく、男は椅子に座り込んだ。
もう体が言うことをきかない。全身が自分のものじゃないような錯覚を覚えた。足元から力が抜けていく。
第2発目の稲光が放たれると、屋敷の明かりが全て落ちた。唯、顎髭の男の顔が不気味に照らしだされた。
屋敷では、突然の停電に使用人達が奇声をあげて騒いでいる。
顎髭の男はゆっくりと黒光りした銃口を男の眉間に突き付けた。
一瞬にして体が震えあがった。
男は渾身の力を込めて喉から声を振り絞り、叫んだ!
…が、奇しくも最後の声は銃声と重なった轟音にかき消され、その声は誰にも届くことはなかった…。


暫らくすると屋敷は明かりを取り戻した。
主人がいつものように椅子に腰掛けている姿を確認すると、使用人は安心して仕事に戻っていった…。